「軽井沢×文豪とアルケミスト」開催決定!~軽井沢と児童文学について~

2021.05.13

6月2日~6月30日の間、ムーゼの森・軽井沢絵本の森美術館では、期間限定のイベントが始まります。 その名も「軽井沢×文豪とアルケミスト」です!「文豪とアルケミスト」はDMM GAMESより配信されているゲームです。
(文豪とアルケミストについてはこちら / イベントの詳細はこちら

今回は当館の企画展「鏡の国のアリス」に合わせ、本ゲームから『アリス』の作者「ルイス・キャロル」、 『アリス物語』を共訳した「芥川龍之介」「菊池寛」の等身大キャラクターパネルが館内に設置されることとなりました。
また、当館そばの軽井沢高原文庫では、「堀辰雄」のキャラクターパネルが設置されます!

「文豪とアルケミスト」のキャラクターには、現時点で約80名文豪が登場しているそうです。この中には『風立ちぬ』の堀辰雄をはじめ、芥川龍之介、有島武郎、川端康成、室生犀星など、軽井沢と縁のある文豪がたくさんいます。軽井沢は多くの文豪に愛されてきた土地なのです。


そして彼らの中には、童話を書いた方もいます。例えば芥川は『蜘蛛の糸』、有島は『一房の葡萄』が有名ですが、これらが掲載されたのが、大正7年刊行の児童文学雑誌『赤い鳥』です(画像はいずれもほるぷ出版の復刻版です)

大正という時代には、これまでの規律や形式を重んじる教育を見直し、子どもたちの個性や創造力を尊重する「自由教育」の考え方が台頭しました。そうした中で、文学や美術などの芸術でもって、子どもたちの感性を切り拓こうとしたのが『赤い鳥』だったのです。

この『赤い鳥』には読者投書欄があり、童謡部門の選者を担当したのが北原白秋です。そして後に「自由画」という部門ができました。その選者を務めたのが画家・山本鼎(かなえ)です。
山本は、大正7年頃から現在の上田市周辺を拠点に「児童自由画教育運動」を起こしました。大人が見せるような手本に縛られず、子どもたちの自由な感性を生かして創作してほしいという考え方が根付き、軽井沢をはじめとする佐久地域に広がっていたのです。
この白秋と山本は、『赤い鳥』や「パンの会」などを通して交流を深めます。芸術を用いた自由教育を追究し、こうして大正10年『芸術自由教育』という雑誌の創刊につながります。
(ちなみに、山本は白秋の妹と結婚したため、白秋の義弟にもあたります )


『赤い鳥』に始まり、そこから派生した『芸術自由教育』の主催によって軽井沢にて開催されたのが、大正10年に行われた「芸術自由教育夏季講習会」です。
白秋と山本はもちろん、『赤い鳥』主宰の鈴木三重吉、『赤い鳥』の執筆陣でもありながら児童文学雑誌『金の船』を監修した島崎藤村など、そうそうたる面々が星野温泉にある軽井沢高原教会(当時は「星野遊学堂」という名前でした)に集いました。
この講習会は教育界に大きな影響を与えた上に、与謝野寛・晶子夫妻や若山牧水など、より多くの詩人や作家が軽井沢に訪れるきっかけにもなりました。

自由教育が求められた大正という時代の中で、『赤い鳥』刊行や「 児童自由画教育運動 」が起こりました。それらが交差した場所の一つが軽井沢であり、「芸術自由教育夏季講習会」だったのです。 この講習会は、軽井沢と児童文学とのかかわりを象徴する出来事ともいえます。
軽井沢と文学の縁は有名だと思いますが、じつは児童文学との関わりが深い町でもあるんですね!

軽井沢絵本の森美術館は、現在の企画展「鏡の国のアリス」をはじめ、欧米の絵本を中心に紹介している美術館ですが、日本の児童文学を取り扱うコーナーがございます。
それが第3展示館グラスルーム「トロイメライ」にある「軽井沢と児童文学」のコーナーです!

上記の『赤い鳥』の執筆陣から期間ごとに一人をピックアップし、作家と軽井沢周辺地域にまつわるエピソードや、児童文学作品について紹介しています。
一昨年の7月よりスタートし、現在第5回となりました。第1回目は「鈴木三重吉」、2回目は「北原白秋」、第3回目は「芥川龍之介」、第4回目は「有島武郎」、 そして現在は「島崎藤村」をご紹介しています。ご来館の際には、ぜひこちらもご覧ください!

軽井沢は文学名所の宝庫です。「軽井沢×文豪とアルケミスト」にお越しの方は、ぜひその歴史にもじっくりふれてみていただけたら嬉しいです!

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学芸員 中須賀