軽井沢絵本の森美術館「ヨーロッパ絵本の旅」開催中!①~北欧の絵本について~

2021.11.18

軽井沢絵本の森美術館 秋冬展「ヨーロッパ絵本の旅」開幕から一ヶ月。日々のご来館、誠にありがとうございます!

本展では、主に1900年代~1970年代の戦前から戦後の時代におけるヨーロッパの絵本を取り上げています。
また、展示室はそれぞれ「北欧」「中欧」「西欧」の3つに分かれており、それぞれの地域のイラストレーションや絵本の展示はもちろん、その特徴や歴史的背景を解説しています。
展示作品リストも掲載しておりますので、ぜひご覧ください!
壁面画(イラスト)リスト / ケース内(書籍・資料)リスト

今回のコラムでは、第1展示室「北欧の絵本」の内容の一部をご紹介します!

本展で取り上げる「北欧」は、デンマーク、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、アイスランドの5ヶ国を差します。
こうした国々の絵本で主に題材とされるのは「自然への親しみ」です。この背景には、近代産業化への反発や自国のアイデンティティを求めた民族復興運動、戦後の自国愛を育む教育といった要因があります。また、サンタクロースの村がある地域としても知られ、クリスマスがテーマの絵本も多く見られます。

そして北欧が誇る作家といえば、デンマーク出身のアンデルセンです!
「人魚ひめ」「マッチ売りの少女」など、ヨーロッパのみならず、世界中で知られる童話を生み出しました。
アンデルセンは1805年8月4日にオーデンセに生まれ、1867年にはオーデンセの名誉市民に選ばれます。1875年の70歳の誕生日には国をあげての祝祭が挙げられ、その後まもなく首都コペンハーゲンにて国葬で送られました。まさしくデンマークのアイコン的存在ともいえます。

第1展示室では、年代の違うヨーロッパのイラストレーターたちによるアンデルセン童話のイラストを展示しています。作品はすべて時代順になっておりますので、絵本やイラストの形態の変化にもご注目ください。
そして、その中からデンマーク出身の3名の画家を紹介します!

○フリッツ・シーベア(Fritz Syberg 1862 年-1939 年)


フリッツ・シーベア画『ある母親の物語 Historien om en Moder af H. C. Andersen』1895-1898年

シーベアは、デンマークのフュン島生まれの画家です。日常生活の場面や自然を描く風景画家として知られますが、彼がアンデルセン童話の「ある母親の物語」に挿絵つけた本作は、彼の代表作となりました。
この物語は、重い病気を抱えた子どもを連れていった死神を追う母親のお話です。母親はいばらでケガをしたり、美しい髪や目を犠牲にしながらも、死神に追いつきます。死神は神様の庭の番人で、人々の命が宿っている植物を守っていました。死神は母親に、そばにある井戸の中を見るように言います。そこには2つの花があり、一方は幸福な人生を、もう一方は過酷な人生を送ることになる命であり、どちらかが息子のものでした。
母は子どもが不幸にならぬよう、死神に子どもを連れていってもらうように頼むのでした。シーベアの写実的なタッチは、こうした母親の苦悩を克明に伝えてくれます。

○カイ・ニールセン(Kay Nielsen 1886年-1957年)

 
カイ・ニールセン画「雪の女王」「火打ち箱」 『アンデルセン童話 Fairy Tales by Hans Andersen(アメリカ版)』1924年/George H. Doran Company刊

カイ・ニールセンは、デンマークの首都コペンハーゲンにて、王立劇場の監督である父と女優である母の間に生まれました。彼のイラストの大きな特徴である舞台のような引きの構図は、この生い立ちが大きな一因になっています。
また、本展のメインイラストでもある「雪の女王」や、展示中の「火打ち箱」の景色に見られる表現や色づかいは、オーロラや白夜といった北欧ならではの気候を感じさせます。
ニールセンが活動したのはちょうど戦前から戦後への過渡期です。「ギフトブック」という挿絵本の栄華も終わりへと近づいていたため、挿絵画家として活躍できた時期はあまり長くありませんでした。
館内では、彼についてのエピソードも詳しく紹介しておりますので、ご注目いただけたら幸いです。

スヴェン・オットー(Svend Otto S. 1916 年-1996 年)

アンデルセン童話やグリム童話の絵本で知られるコペンハーゲン出身のオットーは、イギリスの美術学校で学んだたしかな技術で、絵本以外にも様々な分野で活躍しました。「みにくいあひるの子」を出版した1978 年には、国際アンデルセン賞の画家賞を受賞しています。
水彩の柔らかなタッチが特徴で、本展にて原画2点を展示中の「マッチうりの女の子」(上記画像は童話館出版、1994年初版発行)は、水彩の淡さと、女の子が見る幻の揺らぎが見事にマッチした作品です。
また、同作品のおばあさんが女の子を連れて行ってくれる見開きの場面は、美しさと切なさが凝縮されています。ケース内での展示はもちろん、館内の閲覧コーナーでもお読みいただけますので、ぜひお手に取ってご覧ください!

ムーゼの森(過去の学芸コラム一覧に飛べます)
学芸員 中須賀