木葉井悦子のアトリエ~秋冬の展示~

2021.11.20

軽井沢絵本の森美術館 第1展示館にある「木葉井悦子のアトリエ」の展示替えを行いました!今回展示している作品は、『ねずみねずみねずみがいっぱい』です!

▲『ねずみねずみねずみがいっぱい』(内藤里永子・吉田映子/編訳、木葉井悦子/絵)

『ねずみねずみねずみがいっぱい』は、1993年に大日本図書より刊行されました。イギリスの伝承童謡「マザーグース」やルイス・キャロル、ウォルター・デ・ラ・メアといった詩人たちの詩の中から、「ねずみ」が登場するものを集めた絵本です。1つ1つの詩に、木葉井が絵をつけています。

「ねずみ」と聞くと、どのようなイメージが思い浮かぶでしょうか。
キャラクターとしてのかわいらしい「ねずみ」か、はたまた食物をかじったり、病気を運んでくる「ねずみ」か……。
「ねずみ」と一口に言っても、実に様々なイメージが混ざり合って浮かんでくるのではないでしょうか。

『ねずみねずみねずみがいっぱい』にも、かわいい「ねずみ」から、少し怖い「ねずみ」までたくさんの「ねずみ」が登場します。
例えば、ファイルマンの「かわいいって おもうよ」では、家の中を走り回りなんでもかじってしまうねずみたちが登場します。
困ったことをするけれど、しっぽが長くて顔が小さくて、どこか憎めないかわいいねずみたちの様子を、木葉井が見事に表現しています。

また、ブラウニングの「ハメルンの笛吹き男」では、人々に悪さをするちょっと怖い「ねずみ」たちが、笛の音につられてぞろぞろ街を出ていく様子が描かれています。怖いねずみたちを引き連れていく笛吹き男も、魔女のような不気味な姿で描かれています。「ハメルンの笛吹き男」の謎めいた雰囲気がよく伝わってきます。木葉井の豊かな表現力が感じられる作品です。

木葉井と親交の深かった内藤里永子氏によると、木葉井がこの絵本の絵を描いていた時、彼女のもとに7匹のねずみが現れて絵の具をかじったりしていたといいます。しかし、絵を描き終えるとぱったり現れなくなったそうです(「木葉井悦子没後十年回顧展」寄稿文より)。
『ねずみねずみねずみがいっぱい』は、木葉井の晩年の作品にあたります。この時期、木葉井は病気のため息をするのも苦しい日もありました。しかし、その状況をさえ「渾身のエネルギー」に変え、木葉井は絵と向き合い続けていました。7匹のねずみは、木葉井のもつエネルギーに引き寄せられたのかもしれません。

木葉井の豊かな表現力で描かれた「ねずみ」たちは、いきいきとした生命力に満ち、詩の中に息づいています。どのような時でも真摯に絵と向き合い続けた木葉井の絵の力を、『ねずみねずみねずみがいっぱい』から感じていただけたら幸いです!

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学芸員 畑中