2023.11.26
11月も下旬となってしまいました、すでに冬のにおいに満ちてきた軽井沢です。
そんな中、軽井沢絵本の森美術館の第2展示館では秋冬展「アメリカ絵本の魅力」が開催されています!
「アメリカ絵本」と一概に言ってもイメージがわきづらいかもしれませんが、「かいじゅうたちのいるところ」「ちいさいおうち」「3びきのやぎのがらがらどん」といった現代でも知られるロングベストセラーの多くは、アメリカを発祥とする絵本なのです。
本展は、アメリカの絵本の歴史をたどりながら、アメリカの絵本史を築いた画家や作品をご紹介する展示になります。
〇アメリカ絵本の歴史のはじまり
アメリカ初の児童向け歴史小説といわれる『銀のうでのオットー』(1888年、ハワード・パイル作・画)
アメリカ絵本が本格的に発展していく前のこと、19 世紀~ 20 世紀後半には「挿絵本」が主流の時代がありました。アメリカでこの「挿絵」の世界を開拓したのが、ハワード・パイル(Howard Pyle)です。さらにパイルは、後進育成にも力を注ぎ、アメリカを代表する画家の一人ジェシー・ウィルコックス・スミス(Jessie Willcox Smith)を輩出しました。
それまでのアメリカでは、挿絵画家の地位は低く見られていました。しかし、パイルやスミスの活躍によって、挿絵画家や女性イラストレーターの地位が向上したのです!
スミスの作品の一つに『クリスマスの前の晩 Twas the Night Before Christmas』(1912年)があります。この「クリスマスの前の晩」の内容は、アメリカの神学者ムーア博士が子どもたちのために書いた物語詩が元となっており、アメリカのクリスマスの風物詩ともなっています。
こうしてアメリカ児童文学界に優れた画家たちが台頭してきた後、1920年頃からアメリカでは児童書の普及に力を入れるようになりました。アメリカの絵本史は、ヨーロッパ諸国の後をついていくような形で始まりましたが、いよいよその個性が開花していくのです!
〇アメリカ絵本の象徴「コールデコット賞」
アメリカを絵本史を支える名作の数々は、1938年に制定された「コールデコット賞」を受賞した作品でもあります。この賞は最も名誉ある絵本賞とされており、児童文学を含まない「絵本」に限定された賞として、たいへん歴史のあるものになります。
受賞画家の例として、「3びきのやぎのがらがらどん」で知られるマーシャ・ブラウン(Marcia Brown)がいます。マーシャは『シンデレラ』『むかしねずみが』『影ぼっこ』にて、3度もコールデコット賞を受賞しています!
コールデコット賞を受賞した絵本には、ランドルフ・コールデコット画「ジョン・ギルピンのこっけいなできごと」のイラストのメダルがついています
そしてコールデコット賞を追っていくと、 アメリカの絵本がどのように発展したのか、時代ごとにどのような作風の絵本が生まれていったのか、名作を輩出してきた背景が見えてきます。
1940年頃より、アメリカの絵本では、子供の心理や想像力に焦点が当たるようになりました。その特徴を極めたのが、モーリス・センダックの『かいじゅうたちのいるところ Where the Wild Things are』(1963年受賞)です。無垢なだけでなく、怒りや不満を抱え、それを乗り越えようとする子どもたちの姿を、センダックは主人公マックスに反映したのです。
また、1970年頃からは題材が多様化し、ドナルド・クリューズ『はしれ!かもつたちのぎょうれつ Freight Train』(1979年受賞)のような、新しい形の乗り物絵本が生まれました。そして1980年頃からは、印刷技術の向上により、絵本原画と印刷された絵本紙面の差が出にくくなりました。こうしたことから、アリス&マーティン・プロヴェンセン『パパの大飛行 The Glorious Flight : Across the Channel with Louis Bleriot』(1984年受賞)をはじめとする芸術性の高い絵本が生まれ、子どもだけでなく大人も楽しめる作品が増えていったのです。
本展の最大の魅力は、こうしたコールデコット賞の受賞作や、受賞歴がある画家の絵本原画約30点を一気にご覧いただける点です!
また、コールデコット賞の由来となった、「現代絵本の父」ランドルフ・コールデコットについてもご紹介しています。合わせてぜひご覧ください!
〇アメリカへ移住した画家たち
アメリカ絵本の個性の一つには、アメリカ生まれ・アメリカ育ちの画家のみならず、さまざまな国で生まれ育った画家がアメリカで活躍した点があります。「おさるのジョージ」の作者として知られるH.A.レイが、まさにその一人です。
元々「おさるのジョージ(原作名:ひとまねこざる)」は『きりんのセシリーと9ひきのこざる Cecily G. and the Nine Monkeys』(1939年)に登場するキャラクター・ジョージに焦点を当てたもので、レイは「ひとまねこざる」の原稿を持ちながら、祖国ドイツを逃れてアメリカに来たといいます。
本展では『セシリー』と、レイの代表作の一つ『どうながのプレッツェル Pretzel』(1944 年) の絵本原画を展示しています。
本展の内容は、当館の名誉顧問・吉田新一先生の『アメリカの絵本』(2018年、朝倉書店)の内容を基礎としています。ぜひ、本展と合わせてお楽しみいただけたら幸いです!
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学芸員 中須賀