軽井沢絵本の森美術館 夏展「イソップ童話とどうぶつ絵本」開催中!

2025.07.27

いまいあやの「ライオンとネズミ」『イソップ物語 13のおはなし』©2012 Ayano Imai/BL出版

軽井沢絵本の森美術館では、現在2025年夏展「イソップ童話とどうぶつ絵本」を開催中です!
本展では、佐久市在住の絵本画家・いまいあやの氏の『イソップ童話 13のおはなし』(2012年、BL出版)に登場する動物を中心に、さまざまな「どうぶつ絵本」を紹介しています。
前回の春展「たのしいイソップ童話の世界」では、さまざまなイソップ童話のお話と、イソップ童話の歴史や絵本になるまでの背景を紹介してきました。この夏展では「どうぶつのお話」としてイソップ童話を読み、さまざまな「どうぶつ絵本」を楽しんでいただく内容になっています。

今回のコラムでは、本展の内容の一部をご紹介します!

・どうぶつ絵本とは?
どうぶつが出てくる絵本は数えきれないほどありますが、「どうぶつ絵本」の主な特徴としては「動物の生態を知ることができるもの」「動物と人がかかわるもの」といった点が挙がります。いずれにしても「人間とは違う、特有の性質や習性をもった動物が登場することで、お話が成立する絵本」と言えるでしょう。

そのはしりとしては、イギリスの挿絵画家、トマス・ビュイックによる『英国鳥類誌 第一巻』(1797年、New castle upon Tyne)が一つとして数えられるでしょう。

現在でいう図鑑に近い内容で、さまざまな鳥の生態や生息している環境などを知ることができます。現代の絵本を想像すると、「これが絵本?」と思われるかもしれませんが、この本は当時の子どもたちにたいへん人気があったといいます。今でも動物図鑑は子どもたちに親しまれていますが、この時代でも同様だったんですね。

・絵本に見る、どうぶつの習性
動物たちが登場するお話には、その動物ならではの特徴や習性が活かされている場面が多くあります。どんなものがあるか、一例をご紹介します!


犬が主役の絵本のうち、H.A.レイ『プレッツェル(Pretzel)』(1944年)では、ダックスフントの親子の話が描かれています。ダックスフントは長い胴が特徴です。お父さんのプレッツェルは、世界一長い胴のダックスフントと紹介されています。プレッツェルは、その長い胴をいかして、子どもたちに川を渡らせてあげます。犬の中でも、胴の長いダックスフントならではの場面ですね!


もう一つは、大工であるビーバーの親子が主役の『ぼくたちおやこはだいくさん(Die Biberburgenbaumeister)』(パウル・マール作、1998年)をご紹介します。
お父さんのバルタザルはこれまでドーム型の住みやすい家を作ってきましたが、息子ベンが新しい塔型の家をつくりたいと言ったことで、ケンカになってしまうお話です。
この絵本のとおり、ビーバーはりっぱな歯とあごで、木をかじってたおしたり、枝やどろを使ってダムや家を作る、まさに「だいくさん」な性質があります。さらに、ビーバーの作る巣はドーム型をしており、バルタザルの伝統的な家づくりは、こうした特徴に基づいているのがわかるのです。

・イソップ童話から見える、動物の特徴

館内では、展示中のイソップ童話すべてのあらすじをご紹介しています

では、イソップ童話におけるどうぶつの習性とはどんなものでしょうか。
本展のチラシを飾る「ライオンとねずみ」を見ていきましょう。このお話では、ライオンはねずみに命ごいをされ、食べずに見逃してやります。その後、網にかかってしまったライオンは、さっきのねずみに網を噛みちぎってもらうことで、救われる内容です。
ライオンは「大きくて強い生き物」として、ねずみは「小さくて弱そうな生き物」として、一見正反対な生き物に思えます。しかし、実際にはライオンが狩りに成功する確率は20~30%にとどまるといいます。なにより、カバやサイといった自分よりも大きくて強い動物には、ライオンが勝てないことも多いようです。
一方、ねずみはするどい歯を持ち、こまわりを生かして素早い動きもできます。また、雑食のねずみ(ハツカネズミなど)は食べられるものが多く、繁殖力(子どもをたくさん産む力)も強いといった特徴があります。こう見ていくと、ねずみは決して「弱い動物」と言いきれないのではないでしょうか。
「ライオンとねずみ」の教訓は「強い者も、弱い者に力をたよらなければならないことがある」というものですが、大きい・小さいことが、必ずしも強いことにつながるわけではないと、動物たちの習性をもって教えてくれるのです。

・いまいあやのによるどうぶつ絵本
春展では、いまいあやの氏による「イソップ物語 13のお話」「くつやのねこ」の原画を展示しましたが、本展からはさらに『108ぴきめのひつじ』(日本語訳は文溪堂)、『ベルナルさんのぼうし』『チャッピィの家』(どちらも日本語訳はBL出版)の絵本原画の展示が加わります!
いまい氏は多数のどうぶつ絵本を手がけてきました。その背景には「登場するのが人間よりも、動物の方が子どもは気持ちが入りやすい」という考えがあります。いまい氏が描く動物は、今にも動き出しそうな繊細なタッチでありながら、やわらかい雰囲気に包まれており、動物へのまなざしが感じられます。
家出をするために犬小屋ごと運ぶ『チャッピィの家』チャッピィのコミカルなすがたや、ほかのひつじたちが飛び越えていくベッドを、自分だけなかなか乗り越えられない『108 ぴきめのひつじ』のいじさらしさ、ひとりが好きだった『ベルナルさんのぼうし』ベルナルさんの心の変化といった、のびのびとした動物たちの様子に、子どもも大人も心を寄せるのです。
どうぶつ絵本は、作者と動物の距離感を映す側面もあります。いまい氏による動物の向き合い方を、ぜひ感じ取ってみてください。

8月1日からは、チャッピィとベルナルさんのフォトスポットイベントも開始されます!

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学芸員 中須賀