2024.08.26
すっかり折り返しとなりましたが、 6月13日より 軽井沢絵本の森美術館の第2展示館にて夏の特別展【かこさとし 絵本への「まなざし」】を10月14日まで開催しております!普段、当館は欧米絵本を中心にした企画展を行っていますが、日本の絵本をメインにした展示はなんと14年ぶりです。
かこさとしは1926年に福井県の武生(現在の越前市)に生まれ、絵本を含め600もの作品を生み出しました。本展では主に「初期作」「代表作」「科学や社会の絵本」と分けて展示しています。
今回は本展で「初公開」される作品を含め、特に見どころとなる作品をいくつかピックアップしてご紹介します!
・初の全場面展示『からすのパンやさん』(偕成社、1973年)
この絵本から、かこさとしの作品にふれるようになった方も多いのではないでしょうか。
「いずみが森」で4羽の子どもたちを育てながら、パンやさんを営むからすの夫婦が主役です。とあるきっかけから、パンやさんにたいへんな行列ができ、それを工夫して乗り切るお話となっています!
表紙を除くすべての場面の複製原画が並ぶのは本展が初!どんなお話だったかを絵本を読み返しながら、 ぜひ原画をじっくりご覧ください。 パンが並ぶ場面が記憶に残っている方も多いと思いますが、 改めて読むとまた違った読み方や魅力を感じられるかもしれません。
また、からすの子どもたちがそれぞれ活躍する続編『からすのおかしやさん』『からすのやおやさん』『からすのてんぷらやさん』『からすのそばやさん』 (いずれも偕成社、2013年) もご紹介しています!ぜひ合わせてお楽しみいただけたら幸いです 。
(時々、館内では「続編があったんだ!」と驚かれている方をお見かけします)
・工学博士かこさとしの魅力『だるまちゃんとかみなりちゃん』(福音館書店、1968年)
『まさかりどんがさあたいへん』(小峰書店、1996年)
かこさとしのもう一つの代表作が「だるまちゃん」シリーズであり、その2作目が『だるまちゃんとかみなりちゃん』です。
本作では、だるまちゃんは空から落ちてきたかみなりちゃんを助けます。そんなだるまちゃんが迎えられた「かみなりの町」は、たいへん近未来な世界。 あちこちに電波塔が建ち、 雲の形をした車が走っています。ほかにもかみなり公園のダイナミックなすべり台は電気で管理され、 ごちそうを運んでくれる配膳機もあり、ページをめくるたびにハイテクノロジーな場面が続き、わくわくしてきます!
学生時代は図学の授業を熱心に受け、東京大学の工学部を卒業したかこさとしは、本作に見られるような機械の描写や、ギミックをつかった想像を得意とする作家でもありました。
こうしたかこさとしの特徴がよく見える作品の一つが『まさかりどんがさあたいへん』です。タイトルにある「まさかり」をはじめ「よき(斧)」「ちょうな( 釿)」「おおなた(大鉈)」など、 かこさとしの故郷・越前の伝統工芸である打ち刃物が続々と登場し、あるものを作り上げていきます。
同時に、おすましな針さんやおしゃれな糸さんたちが服を縫い、ペンチやドライバー・ニッパーちゃんたちがロボットを作っていきます。特に21~22ページのロボットの製図は、まさに工学博士・かこさとしがよく表れている場面ではないでしょうか。
さて、登場道具たちが作ったものはなんだったのか、完成した後にどうなるのか。ぜひ絵本をめくりながら、たしかめてみてください!
・本展初公開!『森のみどりのシャンリリリン』
本展の初公開となる作品が、『かこさとし童話集 第2巻』(偕成社、2023年)収録「森のみどりのシャンリリリン」の挿絵のもとになった色紙です。
このお話は、ある森の木々の元気がなくなってしまったことから始まります。森に暮らす動物たちは木々をどうするべきか話し合いますが、次第に言い争いになってしまいます。そこへ人間の子どもたちが通りがかり、木々の手入れをしてくれました。その様子を見て、動物たちもまた、みんなで力を合わせて木々の手入れをすることにしました。
童話集に収録された白黒の挿絵では、より多くの動物が描かれていますが、こちらの色紙では彩色がほどこされ、このお話の原風景を鮮やかに感じることができます。ぜひ、お話を読みながら絵をご覧ください。
かこさとしの創作の背景の一つには、戦争体験があります。終戦時、かこさとしは19歳でした。それまでは戦争に貢献する航空士官や技術者を志していましたが、戦争が残した大きな傷跡を見て、二度とこんなことを起こしてはいけないと心に決めました。そして平和の大切さを未来の子どもたちに伝えるために、得意であった絵筆をとり、絵本作家への道へと歩み出したのです。
悲惨な時代を知るかこさとしの目には、人々の平和な暮らしや生活、豊かな自然風景は、かけがえないものとして、尊く映っていたのではないでしょうか。そうした世界を、時にはからすに、時にはかみなりちゃんたちやまさかりどんたちに、時には森の動物たちとして描いていたのかもしれません。
ぜひ、本展を通してかこさとしの「まなざし」を感じていただけたら幸いです!
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学芸員 中須賀