軽井沢絵本の森美術館 2023年春展「アンデルセンのことばと絵本」開催中!

2023.04.07

3月18日より、軽井沢絵本の森美術館第2展示館にて、春展「アンデルセンのことばと絵本」がスタートしました!
今回の企画展では「絵にするのがむずかしい」とされているアンデルセン童話を、アンデルセンの人生を追いながら、様々なイラストレーションとともに紹介しています。

▲展示館入口

さて、アンデルセン童話は何故「絵にするのがむずかしい」のでしょうか。それは、アンデルセン童話の中には、アンデルセンの人生が投影されていることが多いからです。そのため、アンデルセンの生涯を知らなければ、理解するのが難しい箇所もあります。そして、アンデルセンの生涯をより深く理解するためには、故郷のデンマークの言葉や歴史、文化に関する知識も必要になってきます。ですので、翻訳したり絵にしたりすることは、とても難しい作業になるのです。

それでも、アンデルセンの繊細で緻密な文章表現は、多くの画家たちのインスピレーションを刺激してきました。これまでに数多くのアンデルセン童話のイラストや絵本が描かれてきたのが、その証拠ではないでしょうか。今回の学芸コラムでは、アンデルセン童話のお話を、アンデルセンの生涯とともにいくつかご紹介します!

まずは、「雪の女王」です。

▲ハリー・クラーク画「雪の女王」(1916年)

「雪の女王」は1844年に発表された、アンデルセン童話の中でも長編に属するお話です。あるところに、カイという男の子とゲルダという女の子がいました。ある日、カイは悪魔の作った鏡のかけらが目と心臓に刺さり、本来の優しさを失ってしまいます。そして、雪の女王のお城へと連れていかれてしまいました。ゲルダは、カイを探すために旅をします。

このお話には、アンデルセンの両親のことが表れています。例えば、第2章の中で、カイとゲルダの家の屋根の間にある樋(とい)で、野菜を育てている描写があります。これはアンデルセンの母が、家の屋根の樋で野菜を育てていたという想い出からできています。

また、カイが窓の外に体が氷でできた女の人を見る場面があります。ここからは、アンデルセンの父の想い出をうかがうことができます。アンデルセンが子どもの頃のある冬の日、家の窓が一面凍ってしまったことがありました。このとき、窓の一部に、まるで女の人が手を広げているように見える模様があったといいます。アンデルセンの父はそれを見ると、「この氷娘は、俺を欲しがっているんだよ」と冗談を言ったそうです。

続いて、「赤いくつ」をご紹介します。

▲チャールズ・ロビンソン画「赤いくつ」(1899年)

「赤いくつ」は1845年に発表されたお話です。「雪の女王」同様、アンデルセンの両親のことが関係しています。

例えば、主人公のカーレンが、くつ屋で赤いくつを買う場面です。お店の店主は赤いくつについて、あるお金持ちのために作られたが、足に合わず買われなかったと説明しています。

▲ウィリアム・ヒース・ロビンソン画「赤いくつ」(1913年)

アンデルセンの父は、貧しいくつ職人でした。父はもともと文学などが好きで、ラテン語学校に行きたいと思っていました。しかしそれが叶わず、くつ職人となったのです。こうした経緯から、くつ職人である自分の人生には不満を持っていました。そんなとき、そうした生活から脱することができるかもしれない機会が巡ってきました。とあるお金持ちの家庭が、専属のくつ職人を探していたのです。もし彼らのお眼鏡にかなえば、安定した豊かな生活ができるのです。
父は、これに応募しました。そして、試作用に送られてきた絹と自身で用意した革で、1足のくつを作りました。父は、それを持ってお金持ちのところを訪ねていきました。しかし、その家の夫人に気に入ってもらえず「絹を無駄にしただけ」とさえ言われてしまいます。父は「俺だって革を無駄にしただけだ」と言って、くつ底を切ってしまったといいます。

また、本展では松村真依子氏の『愛蔵版絵のない絵本』(2022年、岩波書店)の原画15枚を展示中です!

▲松村真依子画『愛蔵版絵のない絵本』(2022年、岩波書店)の原画

『絵のない絵本』は、絵描きのもとに月がやってきて、自分の見たことを話してくれる、という形式で進みます。月は絵描きに、月の話したことを絵にすれば、立派な絵本が出来ると提案します。自分の体験を物語の中に書き留めた、アンデルセン自身とも重なる部分があります。「絵のない絵本」の物語を、原画と共にご堪能ください!

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学芸員 畑中