2021.03.07
3月になり、軽井沢絵本の森美術館では春夏展「鏡の国のアリス」が始まりました!
『不思議の国のアリス』はご存知の方が多いと思いますが、『鏡の国のアリス』はどのようなお話なのでしょうか。 今回は事前にお楽しみいただけるよう、本展の概要とともに、本作をご紹介してまいります!
●『鏡の国のアリス』あらすじ
▲ひらいたかこ画『鏡の向こう側へ』©2014 Takako Hirai
『不思議の国のアリス』の半年後のおはなしとなっています。 前作では時計を持ったウサギを追いかけて、穴に落ちて不思議の国に入ったアリスですが、 今作では、家にあった鏡を通り抜けて鏡の世界へ向かいます。
鏡の世界はチェス盤になっており、赤のキングやナイトが何やら話しています。 チェスたちからはアリスの姿は見えていないようでした。アリスのそばには本があり、そこには鏡文字で「ジャバーウォッキー」というタイトルの詩が書いてあります。
その後、アリスは赤の女王さまに会い、アリスも女王になることができると教えてもらいます。女王になるために、駒を進めながら双子のトゥイードルダムとトゥイードルディーやタマゴのようなハンプティ・ダンプティ、 未来が見える白の女王さま、アリスを送ってくれる発明家・白のナイトなどに出会うのです。
本展では、章ごとにあらすじを入れているので、『鏡の国のアリス』を読んだことがなくても内容も知ることが出来ます(もちろん原作をお読みいただくとさらに楽しめます!)
●『鏡の国のアリス』の何が面白いの?
▲白のナイトの姿。ジョン・テニエル画『鏡の国のアリス Through the looking glass and what Alice found there』(1871年刊)
▲ハートの女王の姿。チャールズ・ロビンソン画『不思議の国のアリス Alice’s Adventures in Wonderland』(1907年刊)
どこか曖昧な舞台設定であった「不思議の国」に対して、本作では2章にて赤の女王さまが進み方を教えてくれるなど、 不思議の国よりも秩序だった流れになっています。
「鏡の国」では登場人物たちとアリスとのかけあいの一つ一つの結びつきが強いのも特徴です。 特に有名な第6章のハンプティ・ダンプティとの哲学的な会話は、見どころの一つでもあります。
また、ハートの女王をはじめ、どちらかというとアリスに対して当たりが強い面々が多い「不思議の国」に比べ、 「鏡の国」の登場人物たちはアリスに優しげな印象を受けます。
特に白のナイトはたいへんアリスに親切な人物です。 この人物は作者ルイス・キャロル自身をモデルにしているとも言われ、物語のキーパーソンとなります。
「不思議の国」同様、キャロルによるノンセンスな言葉遊びの世界がありつつも、 作者の人間性やメッセージ性がより滲み出るのが「鏡の国のアリス」の魅力と言えます。
本展では、アリスと登場人物たちのかけあいや、場面ごとの解釈を詳しく解説しています。
●ノンセンスって?
上記でも書きましたが、キャロルの世界を語る上で外せない言葉が「ノンセンス」です。 語感を頼りにした、本来なら繋がらないはずの言葉のつながり(言葉遊び)によって生み出される非日常性や滑稽さがノンセンスです。
ノンセンスの最たる例が「マザーグース」となります。 日本でも「ロンドン橋落ちる」や「誰が殺したクックロビン」などの唄が有名ですが、 イギリスでは共通認識として日常生活に浸透している唄の集まりなのです。
「不思議の国」に出てくるハートの女王や、「鏡の国」に出てくるハンプティダンプティ、双子のトゥイードルダムとトゥイードルディー、 ライオンとユニコーンもマザーグースの唄を元にしたキャラクターでもあります。
▲ランドルフ・コールデコット画『ハートのクイーン The Queen of Hearts』(1881年刊)
このマザーグースが台頭したのは19世紀頃でした。 それまで子どものための絵本というと、教訓が中心の内容が多かったのですが、 それに飽き始めていた子どもたちにとって、教訓でも何でもないマザーグースの絵本は純粋に楽しいものでした。 いわばマザーグースは、子どもの楽しみの象徴だったのです。
マザーグースから派生したノンセンスは、とうとうファンタジーという非日常を描く作品を生み出します。そのファンタジーの創成期に出てきたのが、この「アリス」作品でした。ノンセンスは子どもに自由な楽しみを与え、そして非日常をもたらしてくれるものだったのです。
本展では、マザーグースをはじめとしたイギリス絵本史におけるノンセンスについても解説しています!
ここまで本展の内容にふれてまいりましたが、なんと今回は図録も作成しました!
ショップにて660円(税込)で販売しておりますので、ご来館の際はぜひ記念にお手に取ってみてください。 通信販売も近日中にお受けしますので、遠方の方もぜひお楽しみいただけたら幸いです!
(2021.3.20追記)以下URLにて通信販売を開始しております
https://museen.org/news/1339
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学芸員 中須賀