2022.01.02
あけましておめでとうございます!2022年もムーゼの森をよろしくお願いいたします。
さて、軽井沢絵本の森美術館 秋冬展「ヨーロッパ絵本の旅」も、閉幕まで本日含め開館5日間となりました!
本展では、主に1900年代~1970年代の戦前から戦後の時代におけるヨーロッパの絵本を取り上げています。
展示室はそれぞれ「北欧」「東欧」「西欧」の3つに分かれており、それぞれの地域のイラストレーションや絵本の展示はもちろん、その特徴や歴史的背景を解説しています。
展示作品リスト:壁面画(イラスト)リスト / ケース内(書籍・資料)リスト
前回のコラムに引き続き、今回は第2展示室「中欧の絵本」からポーランドを、そして第3展示室「西欧の絵本」からドイツについて、絵本の歴史や代表的な画家をご紹介します!
○ポーランド
ポーランドは1795年に領土分割されてから、念願の独立を果たす1918年までの120年以上もの間、国家が存在しませんでした。しかし、 1939年 に第二次世界大戦が始まってまもなく、ドイツのナチス政権とソ連の侵攻によって再び領国に分割統治され、戦後はソ連の占領下に入りました。
苦境の時代が長かったポーランドですが、国家のアイデンティティ確立のため、子どもの教育、ひいては子どもの本への働きかけに積極的でした。
1921年には子どもの本専門の出版社であるナシャ・クシェンガルニャ(Nasza Ksiegarnia)の立ち上げを行い、ソ連占領下出版社が国有化されたことを機に、1960年代の半ばまでは、ポーランドの出版物の1割が子どもの本であったというほど、子どもの本の普及が拡大しました。また、これは単なる大量生産ではなく、20世紀初頭から国際的な評価を高めていたポーランドの画家たちの技術によって生み出されていたこともあり、画力や内容もクオリティの高いものになっていました。
その優れたポーランドの絵本画家の一人が、ヨーゼフ・ヴィルコンです。2005年にはポーランドの文化功労章が与えられています。
ヴィルコンの作品は「子どもに自然を伝える」向き合い方が強くこめられています。ヴィルコンが描くキャラクターは、主に親しみやすい姿の動物たちですが、彼らは生きる中で大切なことを教えてくれるのです。 当館が収蔵する原画でも、特に数が多いのがヴィルコンの作品です。
本展では(画像左上より時計回りに)『ネコ踏んじゃった!』『いやといったピエロ』『やさしいおおかみ』『ゆきだるまくんのさがしもの』と全4作品の原画11点を展示中で、多くの魅力を感じられるのではないでしょうか。
○ドイツ
『もじゃもじゃペーター』や『マックスとモーリッツ』など、絵本の創成期で重要な作品を輩出していたドイツですが、第二次世界大戦で敗戦国になったことから、絵本界の動きは停滞を余儀なくされます。国が東西に分かれたことから、東西それぞれの動きがありながらも、しばらくは名作や伝統的な絵本の復刊や、外国の絵本を取り入れることで、子どもの本や絵本の熱を絶やさずにいました。
その頃、隣国スイスでは、1952年に首都チューリヒで国際児童図書評議会(通称IBBY)が設立され、絵本賞でも最も名誉高い「国際アンデルセン賞」を立ち上げました。これを境に、アロワ・カリジェやフェリックス・ホフマンといった戦後初期のスイスを代表する代表的な絵本画家が登場します。彼らによるスイスの山村に臨む自然描写や繊細な表現は、ドイツの絵本界に刺激を与えました。
60年代になると、戦争直後に美術学校で学んだ世代の画家たちの活動が始まり、ドイツ絵本界に潮流を呼び戻しました。その一人がクラウス・エンジカートです。
エンジカートは、グリム童話や「ファウスト」などの文学古典作品を描いて独自の個性を確立し、写実的で緻密な表現は、昔話や歴史を克明に伝えてくれます。(上の画像のケース内の絵本は、ご本人から当館にご寄贈いただいたものです!)
本展で原画を展示中の『ぼろきれ箱のサンタクロース(Der Weihnachtsmann in der Lumpenkiste)』は、ドイツのクリスマス文化と、戦後ドイツの小さな村の空気や生活感を伝えてくれる作品です。
また、エンジカートは1973年に『クジャクの結婚式(Die Hochzeit des Pfaudes)』でブラチスラヴァ世界絵本原画展(前回のコラム参照)の金のりんご賞を、1996年には国際アンデルセン賞を受賞しています 。
ムーゼの森(過去の学芸コラム一覧に飛べます)
学芸員 中須賀