軽井沢絵本の森美術館「ヨーロッパ絵本の旅」開催中!② ~スロヴァキア、チェコの絵本~

2021.12.30

まもなく年末。 軽井沢絵本の森美術館 秋冬展「ヨーロッパ絵本の旅」も、閉幕まで残り開館7日間となりました!
本展では、主に1900年代~1970年代の戦前から戦後の時代におけるヨーロッパの絵本を取り上げています。
展示室はそれぞれ「北欧」「東欧」「西欧」の3つに分かれており、それぞれの地域のイラストレーションや絵本の展示はもちろん、その特徴や歴史的背景を解説しています。
展示作品リスト:壁面画(イラスト)リスト / ケース内(書籍・資料)リスト


前回のコラムに引き続き、今回は第2展示室「中欧の絵本」で取り上げるスロヴァキア、チェコ、ポーランドの3ヶ国から、スロヴァキアとチェコの絵本にまつわる歴史的背景や、代表する絵本画家を取り上げていきます!

○スロヴァキア
1918年、スロヴァキアとチェコは統合した状態の「チェコスロヴァキア」として独立しました。 1939年にはチェコとスロヴァキアとしてそれぞれ独立するも、戦後にはソ連のスターリン政権に占領され、再びチェコスロヴァキアとして統合されます。スターリン政権下では、子どもの本を含む様々な芸術分野に厳しい表現規制が行われました。
国家が安定しない状態が長く続いた二国ですが、1956年に「プラハの春」という、表現規制が緩み始めた時期が訪れます。

この「プラハの春」において――1957年、スロヴァキアの首都・ブラチスラヴァにて、世界絵本原画展が開催されました。以降、奇数年ごとに行われるようになり、現在でも世界中の優れた絵本画家たちに、グランプリや金のりんご賞、金牌賞といった賞が送られるようになりました。
このブラチスラヴァ世界絵本原画展(通称BIB)はたいへん名誉な賞であり、その舞台となるスロヴァキアは絵本にとって聖地ともいえる国の一つになりました。


このスロヴァキアを代表する画家が、1983年にBIBのグランプリを獲得したドゥシャン・カーライです。彼が描く鮮やかで緻密なグラデーションの色彩は、一目で見る者の心を奪います。
本展で原画展示中『12月くんのともだちめぐり』(画像は日本語新装版、西村書店、2010年)は、主人公の「12月くん」が、他の季節のみんなに会いに行き、それぞれの季節の良さを知り、自分の仕事ももっとがんばろうと思うおはなしです。1年を振り返るこの時期にまさにおすすめの一冊です!
このほかにも、『幸せな青い鳥たち(Happy Birds Stories)』『小さなびんの中の海(More vo Flasticke)』といった絵本の原画を展示しています。

○チェコ
絵本の起源と言われる『世界図絵』(第1展示館にて展示中)を作った聖職者兼教育者コメニウスがチェコの出身であったことから、チェコは絵本の起源を生んだ国といえます。
17世紀のチェコはキリスト教のカトリック派であるハプスブルク家が力を持っており、彼らにとって異教であるフス派に属する知識人たちは、国を追われることになりました。コメニウスもまた、その一人だったのです。

こうして絶対君主制に置かれたチェコは、公用語がドイツ語になったことにより、母国語を失う危機に陥ります。しかし、チェコの人々は昔話などの口伝えの話を話したり、人形劇といった文化的行為でもって、母国語を水面下で守っていました。チェコの人々の努力は実を結び、19世紀の民族復興運動を経て。チェコ語は公用のドイツ語と同地位を獲得し、復活することが出来ました。

このチェコ語を守る文化の1つとなった「人形劇」は、チェコ絵本の巨匠といわれるイジー・トゥルンカによって、ドローイング・アニメの製作や人形劇アニメにつながり、絵本と合わせてチェコの文化として発展しました。


チェコを代表する絵本画家の一人がアドルフ・ボルンです。元々は風刺漫画として絶大な人気を博していましたが、1973年に出版規制されたことを機に、絵本のイラストを手掛けるようになりました。
本展では、彼のイラスト作品『大いなる幻想』『リンツへの旅の途中』『ネズミと一緒に音楽会』のリトグラフ3点を展示しています。リアルなタッチのイラストもあれば、思わずくすりとしてしまうユーモラスな作品もあり、彼の画風の幅広さと技術の高さを感じられます。

ムーゼの森(過去の学芸コラム一覧に飛べます)
学芸員 中須賀