軽井沢絵本の森美術館「フェアリーテイルの世界」開催中!①~妖精はどこからやってきた?~

2022.04.11

 軽井沢絵本の森美術館 春夏展「フェアリーテイルの世界」開幕から約一ヶ月となりました。たくさんのご来館、誠にありがとうございます!

 フェアリーテイル(Fairy Tale)とは、日本語では「おとぎばなし」と訳され「主に子供に向けた(とりとめのない)おはなし」といった意味があります。 そしてフェアリーテイルには、「シンデレラ」の主人公を助けてくれる精霊や「ジャックと豆の木」の巨人(大男)、「白雪ひめ」の7人の小人といった、人間ではない存在が多く出てきます。こうした存在を、まとめて「妖精」と呼びます。「妖精」というと、羽の生えた小さな人をイメージされる方が多いと思いますが、実は「魔法使い」や「人魚」といったものも、妖精の仲間なんです。

〇フェアリーテイル≒昔話


本展の冒頭では、代表的な3つのフェアリーテイルを古書とともご紹介しています。
知っておくと、本展をよりお楽しみいただけます!

 フェアリーテイルには、アンデルセン童話のような創作物語もありますが、その多くは作者が不明な昔話です。昔話とは、その地域で口伝えされていた物語で、当初は文章にも絵にもなっていないものでした。
 代表的なフェアリーテイル(昔話)としては、「グリム童話」があります!グリム兄弟は、知人たちから話してもらった昔話を書き取り、1812年に『グリム童話(子どもと家庭のメルヒェン)』を出版しました。 他にも、グリム童話の元にもなったシャルル・ペローによる「ペロー童話」や、グリム童話やペロー童話の影響を受けたイギリスの民俗学者ジョセフ・ジェイコブズの童話があります。伝言ゲームのように話されていた昔話は、グリム兄弟やペロー、ジェイコブズといった人々が再話したことによって、文章や絵本の形になって今に至るのです。

〇妖精の発祥は?


土の中にいる妖精。アーサー・ラッカム画『アーサー・ラッカム画集 Arthur Rackham’s Book of Pictures』(1926)より。

 さて、本展で取り上げる「妖精」とは、どこから来たのでしょうか。この妖精の発祥と特に関りが深いのが、アイルランドといわれています。
 アイルランドの人々の祖先には「トゥアハ・デ・ダナーン」という神の遣いのような役割をもった種族がいます。このデ・ダナーン族は、別の種族に土地を追われると、海もしくは地下に自分たちの国を新たに作りました。そして人々にその存在が忘れられてしまうとともに小さくなり、人間には姿が見えないようになりました。これが今日で「妖精」と呼ばれる存在のはじまりといわれています。
 妖精というと、現在では花や森の中に暮らしているイメージが沸いてきますが、海や土に暮らしていたのは、ちょっと意外ではないでしょうか。ちなみに、最初の妖精の記録と言われるジラドゥルス・カンブレンシス『ウェールズ旅行記』(12世紀)に出てくる「エリドルスと黄金のまり」という一説では、妖精は土の中に住んでいたと言われています。
 そしてこの「妖精」およびデ・ダナーン族を特に信仰していたのが「ケルト」という民族です。「ケルト」の人々が、アイルランドのほかにも、イングランドやスコットランド、先のウェールズといったブリテン諸島と呼ばれる地域で暮らすようになったことから、この地域は妖精の発祥や伝承が根差す地域となっていったのです。


ギリシャ神話に登場する木の神・ドリュアス(Dryas)は、ケルトが信仰する「ドルイド」に縁があります。妖精のイメージは、ギリシャ神話の精霊「ニンフ」と混同されることがありました。
アーサー・ラッカム画『アーサー・ラッカム画集 Arthur Rackham’s Book of Pictures』(1926)より

〇ロマン主義と妖精の復活


リチャード・ドイル画『妖精の国にて In Fairy Land』(1875)より。アイルランドの詩人ウィリアム・アリンガムの詩の挿絵であり、 代表的な妖精画のひとつ。

 こうした妖精伝承は、その後のカトリックによる異端迫害や、ピューリタンによる霊魂の否定、つづく18世紀の合理主義の時代によって、衰退していきます。   
 しかし、19世紀には、合理主義に反発する「ロマン主義」の思想が現れます。ロマン主義の考え方のひとつに、「自国の精神的な遺産を発掘し、見つめ直す」といったものがありました。その遺産にあたるものとして、民話や昔話に焦点が当たり、上記のペロー童話やグリム童話の評価が高まります、そして、イギリスでもジェイコブズやアンドルー・ラングらによって昔話の収集がされるようになりました。 この流れに加えて「妖精画家」と呼ばれるイラストレーターたちが登場します。この時代の妖精画は、シェイクスピアの「夏の夜の夢」の影響の色が濃く、幻想な美しさやかわいらしさが強調された、新たな妖精像の創出へとつながりました。

 この「フェアリーテイルの世界」展の導入では、こうした妖精の歴史の中から、妖精物語が生まれる過程や、妖精信仰が薄れた時期や原因など、さらに詳しく解説しております。
 本コラムでは、引き続き本展の内容の一部をご紹介してまいりますので、企画展とともに合わせてご覧いただけたら幸いです!

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学芸員 中須賀