軽井沢絵本の森美術館 マザーグースを知ろう!②~Little Miss Muffet~

2024.04.17

 イギリスを中心に親しまれている伝承童謡「マザーグース」。日本では「ロンドン橋」や「ハンプティ・ダンプティ」などが有名です。特にハンプティ・ダンプティの唄は『鏡の国のアリス』(ルイス・キャロル、1871年)のキャラクターのモチーフにもなっています!

ピーター・ニューウェル画『Through the looking glass and what Alice found there』(1902年)

 この学芸コラムでは、企画展でも紹介しきれなかったマザーグースを取り上げていきます!前回は「すいせんむすめがまちにきた」を紹介させていただきました。
 今回は「マフェットちゃん(Little Miss Muffet)」というマザーグースを見ていきましょう!クモが登場するので、苦手な方はご注意ください。



アーサー・ラッカム画『Mother Goose The Old Nursery Rhymes』1913年

Little Miss Muffet
Sat on a tuffet,
Eating her curds and whey;
There came a big spider,
Who sat down beside her
And frightened Miss Muffet away.

マフェットちゃん
丘にすわって、
カードとホエイ(※)を食べている
そこに大きなくもがやってきて、
マフェットちゃんのそばに座った
マフェットちゃんはびっくりして逃げだした

※カードはチーズの原料となる固形成分、ホエイは牛乳からカードなどを取り除いたあとにできる水っぽい液体。

 マザーグース「マフェットちゃん」は、これまでさまざまな書物に掲載されてきた唄です。『オックスフォード童謡辞典(The Oxford Dictionary of Nursery Rhymes)』(1951年)の著者であるオーピー夫妻などによると、「マフェットちゃん」は、イギリスの博物学者兼医師であったトマス・マフェットの娘、ぺイエンスではないかという説があります。トマス博士は主に昆虫を研究しており、これがマザーグースの「マフェットちゃん」に結びついたようです。しかし、確かな根拠はなく、推測の域をでません。

 さて、マザーグース「マフェットちゃん」のイラストレーションでは、クモの描き方に画家の個性が表れています。
 唄の中で、マフェットちゃんのそばに、大きなクモがやってきます。マフェットちゃんはそれに驚くのですが、画家によってクモの描き方は様々です。例えばイギリスの画家、アーサー・ラッカムは、マフェットちゃんくらいの大きさのクモを描いています。しかし中には、私たちがよく目にするサイズのクモを描いている画家もいます。イギリスの画家、チャールズ・ロビンソンは小さなクモで描いています!

アーサー・ラッカム画『Mother Goose The Old Nursery Rhymes』1913年



チャールズ・ロビンソン画『Mother Goose Nursery Rhymes』(1907年)

 2つの絵を見比べてみると、クモの大きさの違いが分かりますね!

 マザーグースの中では、よく現実には起こらないようなことが起こります。ラッカムはこうしたマザーグースの特性に注目し、本来ならありえない大きさのクモを描いたのかもしれません。一方で、ロビンソンは普通の大きさのクモを描いています。この大きさのクモでも、突然近くに現れたら少しびっくりしますね。ラッカムとは違い少し現実的な印象を受けます。どちらも、画家の個性がよくわかるイラストレーションではないでしょうか。

 このように、同じマザーグースのイラストレーションでも、それを描く画家の想像力や個性を感じとることができます。春展「マザーグースを楽しむ」では、画家たちのマザーグースのイラストレーションを見比べていただくこともできます!ぜひ、開催期間中に足をお運びいただけたら幸いです!

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学芸員 畑中