ルイス・キャロルってどんな人?①2人のアリス

2021.05.22

  6月2日~6月30日の間、ムーゼの森・軽井沢絵本の森美術館では、期間限定のイベント「軽井沢×文豪とアルケミスト」が開催されます!「文豪とアルケミスト」はDMM GAMESより配信されているゲームです。
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 軽井沢絵本の森美術館では、現在、春夏展「鏡の国のアリス」に合わせ、「ルイス・キャロル」のキャラクターパネルが設置されます。そこで、「ルイス・キャロルってどんな人?」と題して、ルイス・キャロルに関する様々なエピソードをご紹介していきたいと思います!

 ルイス・キャロルは、『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』の作者として知られています。本名は、チャールズ・ラトウィッジ・ドジスン。
 彼は1832年、イギリスのダーズベリという小さな村の牧師の息子として生まれました。そして1844年、12歳のときにリッチモンド・スクールへ通いはじめます。この頃にはすでに、数学の才能を認められていました。その後、オックスフォード大学のクライストチャーチに入学し、1852年に特別研究生に選ばれました。これにより、条件はあるものの、生涯クライストチャーチに留まることを許されたのです。
そしてキャロルは、クライストチャーチで数学教師となり、生涯をここで過ごしました。
 大学でのキャロルを知る者たちは、キャロルが『不思議の国のアリス』を書くことが出来るようなユーモアを持った人物とは、夢にも思わなかったそうです。

▲『Alice’s Adventures in Wonderland/不思議の国のアリス』 (表紙)
ジョン・テニエル画 1866年

 しかし、キャロルの中には『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』へと繋がるユーモアがずっと存在していました。そしてそれは、特に子どもたちと関わるときに発揮されました。
 今回は、「2人のアリス」との興味深いエピソードをご紹介します。キャロルにとって、どんな存在だったのか、感じていただけたら幸いです。

 1人目は、「アリス・リデル」という少女です。彼女は、キャロルの幼い友人の1人でした。『不思議の国のアリス』のモデルとなった少女としても有名です。

  1862年7月4日。キャロルは、アリス・リデルとその姉妹、キャロルの友人ダックワースと共に、ボートでピクニックに出かけました。この時、キャロルはアリスたちにお話をしてほしいと頼まれます。キャロルは、この少女たちを楽しませるために、即興でお話を語りました。
 キャロルはこのことについて、先の展開などは考えず、とにかく主人公のアリスを兎穴に落とした、と言います。この言葉にも滲んでいますが、キャロルはお話の続きを考えるのに、とても苦心しました。 

 何度か、「続きは、また”この次”にね」とお話を終えようともしたようです。しかし、アリスとその姉妹たちは、「今が、”この次”だわ!」と、お話の続きをせがんだと言います。
 このように即興のお話を考えるのに、大変な思いもしました。しかし、キャロルはこの日のことを、後に「黄金の昼下がり」と呼んでいます。
 少女たちにせがまれながら、お話を考えたこの時間は、キャロルにとって生涯忘れえない、大切な思い出となったのです。

 ちなみに、ピクニックから帰ると、キャロルはアリスに、お話を書き留めてほしい、とお願いされます。そしてキャロルはお話を書き留め始めました。そしてキャロル自身が挿絵をつけて、1864年に『地下の国のアリス』と題して、アリスに贈りました。
 この『地下の国のアリス』を一般向けに加筆・修正し、ジョン・テニエルの挿絵をつけたものが『不思議の国のアリス』です。『不思議の国のアリス』は、1865年に出版されました。

 2人目は、「アリス・レイクス」という少女。このアリスも、キャロルの幼い友人でした。こちらのアリスとは、『鏡の国のアリス』にまつわる、興味深いエピソードがあります。

 あるとき、キャロルはサウス・ケンジントンの叔父のところに滞在していました。このとき、「アリス・レイクス」と知り合います。2人はすぐに意気投合しました。そして、キャロルはアリスを部屋に招待します。
 さて、そこでキャロルは、アリスにオレンジを渡しました。そして、今どちらの手にオレンジを持っているかを聞きます。アリスは「右手」と答えました。
 次にキャロルは、鏡を見るようにアリスにお願いします。アリスが鏡の方を向くと、鏡の中のアリスは、どちらの手にオレンジを持っているか、と聞きました。アリスは「左手」と答えました。
「どうして左手に持っているんだろう」とキャロル。
 アリスは考え、答えました。
「もしも、私が鏡の向こう側に行ったら、オレンジはまだ私の右手にあるかな?」
 これを聞いて、キャロルは喜びました。
「今までで最高の答えだよ!」

 このように、子どもたちとの交流は、いつもキャロルにインスピレーションを与えてくれるものだったのです。
 キャロルにとって子どもという存在は、数学者として生きる現実の世界から、ノンセンスな夢の世界へ連れて行ってくれる案内人でもあったのかもしれません。

 いかがだったでしょうか?
 今回紹介したエピソードは、軽井沢絵本の森美術館第1展示館内にある「吉田新一文庫」でも紹介しています!
 当館名誉顧問の吉田新一氏の資料の中から、ルイス・キャロルと子共たちとの交流が読み取れるものをピック アップしています!

▲「吉田新一文庫」内 ピックアップコーナー

 また、キャロルが子どもたちと交わした手紙について読むことが出来る『少女への手紙』(ルイス・キャロル、高橋康也・高橋迪 訳、新書館、1988年)をご用意しております!ぜひ、お手に取ってみてください!




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学芸員 畑中