軽井沢絵本の森美術館「フェアリーテイルの世界」開催中!②~夏が近づくと、妖精が集まってくる?~

2022.07.07

6月22日より、軽井沢絵本の森美術館 春夏展「フェアリーテイルの世界」後期展が開催となりました! たくさんのご来館、誠にありがとうございます。


さて、日本でも5月5日頃を「立夏」、6月20日頃の最もお昼が長い日を「夏至」(今年は6月21日、展示替え中でした!)と呼びますが、 妖精伝承の発祥であるアイルランドをはじめ、ケルトの習慣が残る地域では、5月1日が夏の始まりとされています。
(ケルトやアイルランドについては、前回の記事をぜひご覧ください!)

また、イギリスやヨーロッパでは、この5月から6月半ばにかけて、春の訪れを祝い、豊穣祈願を行う「五月祭」または「夏至祭」が行われます。「冬至」のお祭りとしてキリストの誕生日・クリスマスがありますが、「夏至」は聖ヨハネの誕生日でもあるのです。

そして春の中に夏の兆しが見えるこの時期には、妖精たちが人間の世界にやってくるといいます! 五月祭や夏至祭の夜、森の中で歌って踊って楽しむ人々のそばで、精霊や魔法使いが活動をはじめます。
家畜にいたずらをしたり、人間を自分たちの世界に連れ去ってしまったりと、悪さをすることもあれば、 人々と同じように音楽に興じて遊んだり、人間と交流することもあるようです。


ウィリアム・ヒース・ロビンソン画『夏の夜の夢 A Midsummer-Night’s Dream』1914年刊

こんな情景で連想されるのが、シェイクスピア『夏の夜の夢』ではないでしょうか。 この物語も五月祭の前夜が舞台になっており、妖精パックのいたずらによって、人間と妖精それぞれの恋模様が交錯します。
ここでは妖精王オーベロンが、この騒動の発端になる「ほれ薬」の元になる花について 「太陽と月の間を飛びながら、キューピッドが矢で射た花」と説明しています。

また、ドイツのハルツ地方で語られる、魔女の集会「ヴァルプルギスの夜」も、五月に入る前夜、4月30日から行われるといいます。 中世ヨーロッパでは、魔女(魔法使い)は「悪魔」と契約しているとみなされていました。

「ヴァルプルギスの夜」を描いた作品としては、ゲーテの大長編戯曲『ファウスト』が有名です。この作品は、ドイツにかつて実在したとされる魔術師・ファウストの伝説をもとにしています。
ファウストは悪魔を連れた人物として噂されていましたが、ファウスト自身が悪魔であったとする見方もありました。


さて、「妖精」には人型の精霊だけでなく、「魔法使い」や「巨人」「小人」なども含まれることは前回の記事でもご紹介しましたが、 昔話においては「悪魔(デーモン)」も、またその一種になります。
後期からは、こうした「悪魔の昔話」もご紹介しています。

伝説上では物々しい悪魔ですが、昔話の悪魔にはおっちょこちょいなキャラクターも多いです。 グリム童話『あくまの三本の髪の毛』では、知恵ある主人公にまんまと髪の毛3本を抜かれてしまう悪魔が出てきます。
本展では、ノニー・ホグロギアンによる、この昔話の原画を展示しています!


ケイト・グリーナウェイ画『ハーメルンの笛吹き The Pied Piper of Hameln』1910年刊

また同じくドイツの伝説「ハーメルンの笛吹き」の笛吹き男も、一部では悪魔と評されていました。 彼が子どもたちを連れ去ったのは、1284年の6月26日といわれています。やはりこの時期に活動しているんですね……!

そんな夏至の時期は少し過ぎ、人間も妖精も参ってしまいそうなほどの暑い夏がやってきました。熱中症等にお気をつけてお過ごしください!

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学芸員 中須賀