2024.11.25
遅ればせながら、軽井沢絵本の森美術館にて6月14日~10月14日で開催いたしました【特別展 かこさとし絵本への「まなざし」】多くのご来館、誠にありがとうございました!
今回は、本展の記録を残してまいります!直接ご来館くださった皆さまも、「行きたかった!」という方も、ぜひお楽しみいただけたら幸いです。
・展示室1「初期作を中心に」
会場に入って最初の展示室1では、かこさとしが武生(現・越前市)に生まれ、絵本作家を志すまでの経緯を解説しました 。
展示室中央の大きなガラスケースでは、かこさとしが絵本作家を目指すきっかけとなった紙芝居作品や、紙芝居が土台になった絵本、かこさとしのあそび絵本を紹介しました。手前に展示している複製原画は、紙芝居作品「かっぱとてんぐとかみなりどん」の一場面です。後の「てんぐちゃん」シリーズの構想につながった作品でもあります。
壁面にはデビュー作『だむのおじさんたち』(1959年、福音館書店・現在は復刊ドットコム)、初期の代表作『かわ』(1966年、福音館書店)の複製原画とともに、かこさとしの創作の原点となった「はたらく人々」について焦点を当てました。「てんぐちゃん」シリーズや「からすのパンやさん」シリーズの印象が強いかこさとしですが、絵本としての出発点となったのは、はたらく人々の姿や人々の生活の様子が具体的に見える作品であったことが伝わります。
また、童話「森のみどりのシャンリリリン」(『かこさとし童話集』第2巻に収録)の挿絵の元になった色紙も、本展にて初公開となりました。 こちらの内容については前回のコラムにて詳しくご紹介しています!
・展示室2「からすのパンやさん」「だるまちゃん」シリーズを中心に
第2展示館内で最も広い展示室2では、 代表作『からすのパンやさん』(1973年、偕成社)や『だるまちゃんとてんぐちゃん』『だるまちゃんとかみなりちゃん』(それぞれ1967年、1968年、福音館書店)を展示しました! 展示室1の初期作から見えた、かこさとしにとって創作の主要な題材「はたらく人々」への視点をもとに、 あらためて代表作をひもといていきました。
特に『からすのパンやさん』の全場面(表紙を除く)まとまっての展示は、意外にも今回が初!中でも、冒頭の「いずみがもり」の舞台を紹介する場面の展示は、初公開となりました。
戦時中、ひもじい思いをしたかこさとしは、食べものをおいしそうに描くことにこだわっていたといいます。本作に描かれたパンに多くの人が惹かれてきたのは、かこさとしの思いが届いてきたことの表れではないでしょうか。
また、越前市かこさとしふるさと絵本館「石石(らく)」との連携スタンプラリーを開催し、コーナーを設置しました!こちらも多くの方にご参加いただき誠にありがとうございました。
新幹線延伸記念に合わせ、台紙のデザインは『たっくんひろちゃんちょうちょうとっきゅう』(1997年、偕成社)を用い、複製原画の展示も行いました。
また、このゾーンでは長野県飯田市が舞台になっている『だるまちゃん・りんごんちゃん』(2013年、瑞雲舎)、越前市が背景になっている『ゆきのひ』(1967年、福音館書店)を並べ、長野と福井を描いた作品が続く形となっていました。
・展示室3 かがく・しゃかいの絵本
かこさとしが工学博士であったことは 前回のコラム でもご紹介しましたが、本展では工学のみならず、自然科学の絵本も多数ご紹介しました。特に、浅間山で知られる軽井沢で見る『ひをふくやま マグマのばくはつ』(2005年、農山漁村文化協会)は、ロケーションに合う作品だったのではないでしょうか。
そして本展の最後を飾ったのは、しゃかいの絵本『ほんはまっています のぞんでいます』(1985年、童心社・現在は復刊ドットコム)でした!
本作は 子どもへの本の読み方を教えるもので、本屋以外にも図書館や移動図書館の使い方を知ることができます。本が大好きなお子さんにはうってつけな一冊ですが、反対に、本を読みたくないお子さんへの気持ちにもよりそってくれる内容でもあるのです。
本展が行われた時期はちょうど夏休みの時期でもありましたが、夏休みの自由研究や読書感想文のお役に立てていたら幸いです!
このたび展示したかこさとしの作品には、さまざまな「はたらく姿」が描かれていました。この「はたらく」とは、職業のみならず、家事や家を守ること、 子どもたちが泣いたり笑ったり遊ぶこと、学校や幼稚園に行くこと、すべてに当てはまるといえます。悲惨な戦争を体験したかこさとしにとって、こうした当たり前の光景こそが大切と感じ、仔細に見つめ、描いてきたのかもしれません。
当館は「懐かしくて新しい絵本の魅力、再発見」というコンセプトを掲げています。ここには「幼少期の心に残り、大人になってからも読み直したくなる作品を紹介していく」方針があります。 かこさとしの絵本は、まさにそうしたものでありました。
当館は欧米絵本を中心に扱っていますが、国内外問わず、色褪せない魅力を誇る作品を今後もご紹介できるよう努めてまいります!
最後に、本展開催にあたり多大なご協力を賜りました、加古総合研究所、越前市かこさとしふるさと絵本館「石石」、偕成社、福音館書店、小峰書店の皆さまに、厚く感謝申し上げます。
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学芸員 中須賀