エルツおもちゃ博物館・軽井沢 2023年夏展「エルツ地方のミニチュア」①~ミニチュアが伝える歴史~

2023.07.12

エルツおもちゃ博物館・軽井沢は、今年で開館25周年。記念すべき年の夏展として、今月より「エルツ地方のミニチュア」が始まりました!

当館の名前にも入っている「エルツ」とは、ドイツとチェコの国境にある「エルツ地方」をさしています。ドイツ語「エルツ(erz)」には「鉱物」の意味があるように、かつてこの地域は鉱山業が栄えていた土地だったのです!
2019年には、エルツ山地の鉱山地帯が世界遺産にも登録されています。


こうした背景から、エルツ地方のおもちゃには鉱夫(鉱山で働いていた人々)をモチーフにしたものが多く見られます。本展のタイトルケースでは、鉱夫のミニチュアたちが鉱山内で仕事する光景を再現しています!


このように、採掘する人、採れた鉱石を運ぶ人など、様々な姿が見られます。


また、別ケースでは、ちょっとおめかしした鉱夫さんたちの姿が!それが「鉱夫のパレード」のミニチュアです。この衣装は、当時のザクセン公国(現ザクセン州・エルツ地方はザクセン州にあたります)の君主の子息の結婚を祝うパレードにて、鉱夫たちが着用した制服が元になっています。

この制服は鉱夫たちの役割や役職によって、色やデザインが少し違っています。
ミニチュア工房として知られる「ヴェルナー(Welner)」のミニチュアは、足元の裏側に表示があり、これによって、この人がどんな役職であったのか知ることができるのです!


左:Amalgamierer(冶金・やきん/鉱石から有用な金属を取り出して合金する役割)
中央:Pochjunge(鉱夫見習い)
右:Schichtmeister(シフト管理者)

19世紀に入ると、主要産業であった鉱山業が、次第に落ち着いていきます。
エルツ地方は鉱物以外にも木材が豊富であったため、人々は木工芸品を作ることによって新たに生計を立てるようになりました。こうした過程を経て、現在の「木のおもちゃ」で知られるエルツ地方へとつながっていったのです。


その一つが、わっぱのような木箱にミニチュアが入った「シュパンシャハテル」です!
この箱の木材は、木のおもちゃを削るときに出てくる「かんなくず」をかつては再利用していました。現在は、針葉樹を使用して作られているものが多いです。


このほかにも、エルツ地方のターニングポイントとなったミニチュアとして、「ノアの箱舟」や「マッチ箱おもちゃ」があります!

今でこそ、エルツ地方のおもちゃといえば「くるみわり人形」や「クリスマスピラミッド」といったものが知られていますが、ターニングポイントとなったおもちゃには「ミニチュア」が多かったのです。
次回は、こうしたミニチュアの伝統を継いで、現在も活躍中のエルツ地方のミニチュア工房をご紹介します!

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学芸員 中須賀